カニ vs 私
夏休み、家族で山形へ旅行した。
泊まったのは大層な高級旅館、なんてことはなかったが、夕食が美味しいと評判の小さな旅館であった。
午前は羽黒山の神社仏閣をまわり、旅館に着いてからは綺麗な海を眺めて温泉に入ると、いつの間にか夜に。
さあ、夕食へゴー。ここからが本番といっても過言ではないのだ。
わくわくしながら席に着くと、そこに鎮座していたのはまるまる一杯の大きなカニ。
「わぁ〜〜〜い☆カニだ〜〜〜〜〜☆」
なんて、手放しに喜んでいた私、甘い、甘すぎた。
ここから、奴との闘いが始まるとも知らずに…
喜びもひとしお、ほとんど食べたことないカニをここぞとばかり写真に収め、いざ!実食!となって気付く。
(これ、どうやって食べるんだ…?)
どう思い返しても、カニを丸ごと出され食べたという記憶がない。
これは、助けを呼ぶしかない。
(マ、ママーーー!!!!!)
いくら腹の減った赤子のような顔をすれども、濡れた子犬のような目で見つめるも、私は22歳女性。りょうしんには こうかが ない みたいだ…
何より、家族全員カニを食べに行かないから、もう父も母も自らの闘いに必死。完全個人主義の世界。弱い者に訪れるのは、死のみ。
しょうがない、ワイもやるで〜と奮起して足をボキイと折ってみると一気に噴出する、カニ汁…。
お風呂さっき入ったばっかなのに…。
手が臭い…。浴衣にはねた……。
一気に急降下する、私のテンション。
「もういい!カニなんか食べない!」
と、まさかの赤ちゃん返りという最後の切り札を使うも、華麗に圧倒的ガン無視で切り返す父と母。
「くッ…!」
無視されるとなぜか急にやる気が出ちゃう私。ここにきてようやく対カニ専用戦闘機〜通称カニフォーク〜を手に取って闘いのゴングを鳴らした。
「労力に比べて身がちっせえ…」
「これ、言うほど美味しいか?」
「もういっそ、殻いらなくない?身のままいればいいんじゃない?種無しブドウみたいになれば?」
と、もはや甲殻類そのもののアイデンティティを否定する文句をぶつくさ垂れながら一心不乱にカニをほじくる私、可愛さのかけらも無い。
絶対この先、恋人とはカニ食べない、と決意。
それでも、終わりのない闘いなんて、ない。
段々カニの美味しさがわかってきたような気がする、と思えば思うほど、ほじくりはなかなか上手くなっていく。キタキタキター。
最後はまさかの、引き抜いたら身が全部出てくるという素敵なミラクルで終了。
「勝ったぞオオオオオオオ」
バラバラになったカニの残骸を見下ろし、喜びを噛み締めながら飲む日本酒のなんと旨かったこと!
対戦相手、カニへの敬意を払おう。
なかなかに、美味しかったよ。
昨日の敵は、今日の友。
また、家族みんなでカニを食べにいけたらいいな…
なんて思っていたら満を持して登場した、米沢牛。
あーーーーーーー肉って焼くだけでうまーーーーーーーい!!!!!!!!!!
はい、肉が最高ですカニはもうしばらくいいです。
という、山形旅行でした。