残り香に吸い寄せられて。
私の住んでいるマンションは、自分で言うのもなんだが、そこそこ良いマンションだ。
そこそこ広い。
そこそこセキュリティもしっかりしている。
そして、そこそこするお値段。
そんな「そこそこ」マンションに住めているのは、紛れもなく、毎日腰を痛めつつも頑張って働いてくれているパパのおかげだ。ありがとう、パパ。
ただ、今日のところはこの感謝の気持ちを置いておいて、違うパパの話をしたい。
このマンションは前述の通りそこそこ良いので、単身赴任らしき「パパ」たちも数多く住んでいる。
すれ違うたびに挨拶をしてくれる、とっても感じの良い人々ばかりだ。
先ほども、そんなパパたちの1人とすれ違った。
すれ違ったのだ。
すれ違っただけなのだ。
それなのに、こんなにも鮮烈な印象を刻みつけた。
彼の秘密はーー香りだ。
ママー!!!あのおじさん、めっちゃいい匂いする〜〜〜!!!!!!
本当に良い香りだった。
聡明な印象を与える爽やかな香りの中に、ムスクで少々のエロティシズムを。
そんな感じだった、たぶん。
おじさんが歩いたあとには、香りの轍が。
残り香……なんて素敵なんでしょう!
あんなダンディーなおじさまがこのマンションにいたなんて。感激。
でも、そんなミスターダンディーだって、お家に帰ったら娘に「パパ、ウザーい」とか言われてるのかもしれない。うちみたいに。
全国のパパたちは、じつは他人から見たらかっこいいのだ。
私もたまにはそんな目線でパパを見てみようかな。
と思い、パパに注目する。
ああ、また、懐メロかけてるよ……
やっぱり、パパ、ウザーい。